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野良猫

2007 年 9 月 2 日

我が家では 15 年前から猫を飼っている。当時連載していた漫画のキャラクターの名前をとって大鬼熊瓦之丸権三郎左右衛門という。通称ゴンである。

ゴンには敵がいる。野良猫の茶虎くんだ。茶虎くんは 2、3 日に 1 度我が家の小さい庭を訪れゴンをからかって逃げていく。

ゴンは茶虎くんが大層憎いと見えて夜な夜な地団駄を踏んでいる。しかし、ゴンにとっての敵は私にとっては敵ではない。むしろ、私は茶虎くんを手なずけようとしていた。茶虎くんにマタタビのたしなみを教えたいからだ。

私は野良猫がマタタビに酔う姿をこよなく愛している。人間に慣れた猫をマタタビに酔わせるのは簡単であって面白味に欠ける。何よりも風情がない。しかし人見知りする猫の酔い姿は非常に貴重であり好奇心をそそる。筆おろしを目の当たりにしたという満足感もマニア心をくすぐる。餌は使ってはならない。ルール違反だ。

細かいいきさつは割愛するが茶虎くんに私を覚えさせるのに 1 ヶ月を要した。先日、ようやっと茶虎くんの至近に入ることができた。すぐさまマタタビパウダーをくらわせるが、生意気にも茶虎くんはマタタビなんぞ意にも介さない。マタタビボトルに猫パンチを 2, 3 発くらわせる始末である。これはこれでマニア心をくすぐるが今までにこんな猫はいなかった。

おかしい。

よくよく茶虎くんの体を眺めるとまだまだ子供であった。そしてやせている。相当にやせている。目を見れば、「それどころではない、マタタビどころではない」と血走っているのが分かった。生粋の野良猫であろう。ハングリー精神に満ちた戦士のようであった。

ハングリー……もしや腹が減っているのではあるまいか。よもや戦ができぬのではあるまいか。

マタタビ支給後なら餌を与えてもルール違反にはならんだろう。都合のいいルール解釈により、ゴンの餌を少々失敬して茶虎くんに与えてみる。

猫や犬に餌を与えたことのある方なら分かるだろうが、通常、動物は食事中に声を出すことはない。出すとしても食事前か食事後である。だが、茶虎くんは違った。餌にありつくとまず一通りがっついてから私を一瞥する。それからまたがっつき始め、あろうことかがっつきながら「フャウヤウ、フャウヤウ」と鳴くではないか。

私には「かたじけねぇ、かたじけねぇ」としか聞こえなかった。それから 2 週間になるが茶虎くんは我が家には現れない。武士がそうであるように情けを恥と思っているからなのだろうか、それとも連日の暑さで死んでしまったからなのだろうかはあずかり知らない。