EtaPower MF の熱効率
アルコールは配合レシピが無限に考えられますが,ガスは配合率が変わってもほとんど発熱量は変わらないので,まずはガスストーブでお湯を沸かすのに何分かかるか計測し効率を計算しましょう。まず,実際に水を沸騰させその際の燃料の消費量を測定します。燃料の消費量に燃料の熱量を掛け算し,完全燃焼時の発熱量を計算します。次に,水と鍋を温めるために必要な熱量の理論値を計算します。最後に,完全燃焼時の発熱量を必要な熱量の理論値で割り算し効率を推定します。ここで言う効率とは,燃料からどれだけ熱を得ることができたのかという燃焼効率 (完全燃焼すれば 100% になる) と燃料から得られた発熱量が鍋を温めるためにどの程度使われたかという熱効率を掛け算した正味の効率を意味します。
なお,Primus EtaPower Pot 1.0 L (2012) は重量が 148.3 g で比熱は 0.96 J/g・℃ とします。水の比熱は 4.19 J/g・℃ とします。よって,鍋を 86℃ 上昇させるのに必要な熱量の理論値は 0.96 J/g・℃ × 148.3 g × 86℃ = 12.24 kJ。水道水 200 ml を 86℃ 上昇させるのに必要な熱量の理論値は 4.19 J/g・℃ × 200 g × 86℃ = 72.07 kJ。89℃ 上昇させる場合はそれぞれ 12.67 kJ,74.58 kJ です。
ガスストーブにおける着火からの沸騰時間と効率
Primus EtaPower MF 3520,EtaPower Pot 1.0 L (フタなし)
温度 | 時間 | 発熱量 | 必要熱量 | 効率 |
---|---|---|---|---|
95 ℃まで | 2 分 19 秒 (139 秒) | 204.3 kJ | 156.4 kJ | 76.6% |
98 ℃まで | 2 分 33 秒 (153 秒) | 224.9 kJ | 161.8 kJ | 71.9% |
燃料使用量 | 5.92 g (容器 IP-110 193.77 g → 187.85 g) |
温度 | 時間 | 発熱量 | 必要熱量 | 効率 |
---|---|---|---|---|
95 ℃まで | 3 分 36 秒 (216 秒) | 317.5 kJ | 228.5 kJ | 72.0% |
98 ℃まで | 3 分 45 秒 (225 秒) | 330.7 kJ | 236.4 kJ | 71.5% |
燃料使用量 | 7.47 g (容器 IP-110 213.33 g → 205.86 g) |
上記,試験から判断すると Primus EtaPower MF 3520 は 1 分間で約 2 g のガスを消費します。60 分で 120 g なので,出力は 45.616 kJ/g × 120 g/h = 5,473.9 kJ/h = 1,521 W = 1,308 kcal/h。EtaPower MF の公称出力は 1,500 - 2,000 W ということになっていますが,説明書 を見るとガスの消費量は 1 時間に 116 g でその時の出力は 1,610 W (5,700 BTU/h) とあります。これは高位発熱量でしょう。ほぼ実測値からの計算結果通りです。測定の際,火をつけた瞬間にストップウォッチを開始することができず,また,98℃ になった瞬間に火を止めることができなかったために測定結果は消費量がちょっと多めになってますが,実際の消費量は 116 g/h なのだと思います。すると真の出力は 45.616 kJ/g × 116 g/h = 5,291.5 kJ/h = 1,470 W = 1,265 kcal/h。
116 g/h をもとに計算すると効率は最大で 76.6% という驚くべき値になりました。ガスストーブの燃焼効率は 100% でしょうから熱効率が 76.6% ということです。EtaPower MF の公称熱効率は 80% ですからフタなしで 76.6% というのはすごいと思います。フタをすれば 80% に達するでしょう。
Primus EtaPower MF 3520 は海外で販売された高効率ストーブの複数燃料対応バージョンです。公称熱効率は実に 80%。ジェットボイルの誕生によりガスストーブには高効率という新しい性能が付与されましたが,一方で調理性が欠落してしまいました。ガスストーブに高効率と調理の楽しさを共存させたのがプリムスの EtaPower シリーズです。Primus の EtaPower シリーズは 2006 年に初期モデルの EtaPower EF 3510 (ガスのみ対応) が発売され,EtaPower MF 3520 (複数燃料対応) は 2008 年に発売されたそうです。私が使っているのは 2012 年に購入した EtaPower MF 3520 です。ヒートエクスチェンジャー付きの 2.1 L の鍋,フタ兼フライパン,風防付きの五徳,燃料ボトルとセットで販売されました。送料込みで $128.43 でしたが当時は円高だったので送料や輸入時の消費税を入れても 1 万円ジャストぐらいでした。
その後,2013 年に大幅なモデルチェンジがありました。初期モデルでは鍋のヒートエクスチェンジャーの下の円形のプレートがヒートエクスチェンジャーの下の一部しか覆っていませんでしたが,新モデルではヒートエクスチェンジャーの下全面と側面を覆うようになったので小さい五徳でも安定し,かつ,熱効率も 80% から 82% に向上したそうです。また,鍋内面のコーティングもハードアノダイズコーティングからセラミックコーティングというはがれにくいものに変わり,持ち手も全鍋に装備されました。さらに鍋ブタが樹脂製の水切り付きのものに変わりました。土台部分も大幅な意匠変更があり土台と風防が一体化し雪上でも沈み込むことがなくなりました。一方,EtaPower MF (複数燃料) は消滅し,EtaPower EF (ガス燃料) に一本化されました。EtaPower EF を複数燃料に対応させるキットが別売されるようになりました。さらに重量は,風防,土台,ストーブはセットで 385 g (要最計量) → 422 g,鍋はフタなしで 1.7 L 221.14 g,2.1 L 247 g → 1.8 L 306 g,フタは 1.7 L 用 91 g → 1.8 L 用 86 g ということで大幅に重くなってしまいました。2015 年には同梱の鍋が ETA POTS から PRIMETECH POTS に変わりました。変更点は持ち手がプラスチックになったことと,フタが透明なトリタンという素材になったことです。これにより名称も EtaPower EF から Power Stove Set になりました。2016 年 1 月現在,日本は 2013 年モデルの EtaPower EF ままで Power Stove Set は販売されていません。
EtaPower MF 3520 はガスのみならず灯油,ガソリンにも対応する複数燃料ストーブです。液体燃料時は火力調整ができないため,灯油もガソリンも結局初日しか使いませんでした。LP ガス専用の EtaPower EF 3510 の説明書 を読むとそっちの方が高火力 (160 g/h, 2,200 W) だという驚愕の事実が記されており,そちらを買えば良かったと今になって後悔しています。しかし,現行の Power Stove Set 3510 の説明書 には 116 g/h, 1,610W と記載があるので,EtaPower EF 3510 の説明書の記載が間違っているかもしれません。そう思いたい。
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